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前田陽一郎
(立命館大学)
片上大輔
(東京工芸大学)

「人間共生システム研究会」第8回研究会

参加報告

報告者:前田陽一郎(HSS研究会代表幹事・福井大学)

日 時:2010年3月1日(月) 13:00〜2日(火)12:30
会場:料理旅館「さかえ」(福井県丹生郡越前町)

 3月1日〜2日に人間共生システム研究会の単独研究会(第8回HSS研究会)が開催されましたので,僭越ですが主催者の私が企画者の目線で今回の研究会のご報告をさせていただきます.

 今回は,研究会が今年で3年目を終了するということもあって,一度,幹事だけでじっくり今後の方向性などを議論する場をもちたいという以前からの要望を叶えるべく,幹事会の形式を取らせていただきました.幹事が落ち着いてゆったりしていただけるよう,会場には本格的な越前ガニの生の茹で蟹を食べることのできる民宿(料理旅館)を選びました.

 年度末の卒論と修論の多忙な時期を終えたばかりの慌ただしい期間であったため,残念ながら通常参加していただいている幹事の方々も欠席される方が多く,結局は10名の参加に留まりました.しかしながら,逆に参加人数が少なかった分,非常に中身の濃い報告とディスカッションができたのではないかと思います.研究会の今後の方向性という日頃の研究会では滅多に議論することができない話題について,幹事同士で夜遅くまで有意義な討論ができたことは企画者としてもとても良い機会を提供できたのではないかと考えています.

 今回はいつもの研究室見学がなかったので,久保田先生からのご提案で,急きょ研究会に先立ち,遠くから来られる先生方のために福井で有名な酒造メーカーの蔵元見学を予定に組み込ませていただくことにしました.今回見学させていただいた畠山酒造というのは「百貴船」と「雪きらら」といった今庄にある福井では有名な地酒の酒造会社です.通常は,福井県に住んでいる人でも滅多に見ることのできない貴重な酒蔵の奥深く,麹の温度調整室まで見せていただき,メンバー一同お酒のいい香りに酔いしれながら,純米吟醸酒の製造工程を案内していただきました.(図1〜3参照)

図1 蔵元見学
図2 酒蔵の熟成樽

 見学の後,全員で会場に移動し,私の挨拶の後,研究会幹事による研究討論会を始めました.一人20分程度の時間で現在の研究紹介と人間共生システムへの思いについて,7名の先生方に自由な形式で語っていただきました.民宿での開催のため,プロジェクタとスクリーンを持ち込んで講演をしていただいたので,発表環境としてはあまり良くなかったのですが,その分,全員がリラックスできて非常に活発な白熱した質疑応答が行われました.以下にそれぞれの講演を簡単にサーベイします.(図4参照)

図3 製品の吟醸酒
図4 研究討論会の様子

(1) 講演1:前田陽一郎(福井大学)
 これまでのHSS関連研究の概要紹介をした後,代表幹事として「人間共生システム」研究の必要性と意義,これまでのHSS研究会の経緯などを紹介し,今後の研究会の方向性を考える上でヒントとするため,現在のメンバー(33名)の研究者マップを示した.これは「ソフトウェア-ハードウェア」「人間中心-システム中心」の2軸平面上にすべての研究会メンバーの研究を配置し,これより「インターフェース」「ロボット」「コンピュータ」「アート・社会」といった方向性が今後の重要な流れになることが予想されると述べた.
(2) 講演2:久保田直行(首都大学)
 iPhoneを用いたセンサネットワークの話題が最初にあり,「情報構造化空間」を創造するユニバーサルリモコンの研究紹介があった.スーザン・グリーンフィールドの「未来の私たち」を例に出し,GNR(Genetic/Nano/Robot Technology)が今後のキー技術になることをまず述べ,今の若者がパッシブであることから,弱いつながりであることに言及し,「人間と人間が共生」するシステムとして,このような「弱い結合」を支援するシステムが重要であるとの話があった.
(3) 講演3:井上博行(福井大学)
 これまで行ってきた研究は「デザイン」「ロボット」「環境問題」「地域社会」と「人間」とのインタラクションに関する研究であることが述べられた.その後,配色支援システムの観光地看板への応用,河川の住民との接し方や意義の調査,エコ・癒しとしての効果があるコミュニケーションツールとしての緑のカーテン,などの研究事例の紹介があった.システム設計にはツールが重要であるが,環境や地域の問題は人間による人間の評価なども対象としていく必要があることが述べられた.
(4) 講演4:中村剛士(名古屋工業大学)
 客観的ストレス軽減効果を計測する手法として,指先の脈拍を利用する心拍変動解析(TPA)を取り入れた研究についての紹介があった.この研究の一環として,フェイススケールを用いた主観的評価,映像鑑賞の脳波に与える影響評価,などの説明もなされた.これ以外に,毛筆フォントデザイン,非写実的画像表現などの研究も紹介された.
(5) 講演5:片上大輔(東京工業大学)
 初めに「共生とは?」という話から始まり,現代は「共生システム社会」であり,「人間と共生する情報システム」として「人を知る」「人を観る」「人を魅了する」「人と交わる」「人と暮らす」といった自律システムが重要であることが述べられた.これまでの研究紹介として,「社会的エージェント」では社会的学習→スキル獲得→スキル自己評価→社会スキル分析への方向の研究,「情報可視化」では「領域横断的関係の可視化」「研究動向や変遷の可視化」「シナリオ抽出支援」「見えざる専門性の把握」の研究などの紹介があった.
(6) 講演6:星野孝総(高知工科大学)
 これまでの研究として,FPGAに関連する研究に以前から興味を持っていたという話があり,FPGAとOpenCVを用いた高速ラベリングによるマイクロロボットのサッカーボール追跡,進化計算によるモルフォロジー演算の最適設計とFPGAモジュールへの実装,FPGAによる回路の異物検出などについての研究の紹介があった.
(7) 講演7:高橋泰岳(福井大学)
 ロボカップサッカーロボットの研究を行っているが,その中で比較的人間共生関連の研究として,人間型の倒立振子ロボットの投球動作,マイクロロボットによるマルチエージェント教示システム,全天周視覚システムによる審判動作の認識,などの紹介があった.

 研究会幹事によるこれらの研究討論会の途中で一旦休憩し,民宿の温泉に各自入った後,夕食をいただきました.生で茹でたてのおいしい立派な越前ガニ(本ズワイガニ)とアンコウ鍋に舌鼓を打ち,蔵元見学でお土産に買ってきた日本酒を飲みながら,楽しい夕食の歓談が行われました.(図5〜6参照)

図5 夕食に出た越前蟹
図6 夕食前の全員の笑顔

 その後,夜の部としてナイトセッションに入り,研究討論会の続きが行われました.参加したメンバーからHSS研究会の今後についての率直な意見が続々と出され,研究会発足以来初めてとも言えるほど,ざっくばらんに熱心な議論が夜遅くまで繰り広げられました.

 翌日の二日目は,朝から大賀さん(NEC C&C研究所)が合流され,ワークショップ(WS)形式の人間共生システムに関する討論会を企画していただきました.これは,大賀さんご自身が現在研究テーマとして取り組まれているWS設計方法の実証評価として実験的な試行も兼ねており,研究会に対する考え方への賛同や非難などを有効に利用する場(ワークショップ)を提供するという画期的な研究会の方向性に対するデザイン提案として行われたものです.以下にこの概略内容を示しておきますが,内容は詳述してしまうとWS体験における新鮮さが失われますので,ここでは敢えて概要にとどめます.(図7〜8参照)

図7 プレWSの様子
図8 アイスブレイク

 プレワークショップ(コーディネータ:NEC 大賀氏)
大目的:「2010年度に向けてHSS研究会が目指す人間共生システム像を明らかにすること」
手順:
1)共通知識の獲得(大賀氏からのWSの手法と今回の目的説明)
2)アイスブレイク(各自が自分の好きなロボットを上げてボードに貼付けて理由を説明)
3)グループディスカッション(コーディネータから与えられたいくつかのお題について全員で討論)
4)ラックアップ,振り返り(討論のまとめをグループリーダが発表し,WSのまとめを行う)

 討論のまとめを行うことで,今後はどのような社会になり,どのような課題が発生し,これからの「人間共生システム」で何が解決できるのか,といった一つの結論を出すことができました.ブレーンストーミングのような単純な作業で予測的な一種の結論が導きだせたことは驚きで,これまで経験したものとは全く異種の討論を経験でき,非常に有意義な時間を過ごすことができました.今回の実験的試みはプレWSとして開催されたもので,大賀さんには今年6〜7月あたりに関西学研都市にて研究会で本番のWSを行っていただく予定です.こちらにも是非多くのメンバーが参加され,興味深い結論が導きだせることを楽しみにしたいと思います.

 尚,HSS研究会は今年度が研究会発足3年目で,来年度はいよいよ4年目となり,ベンチャー研究会として最終年度を迎えます.今回の福井での幹事会は研究会の今後を予測し,将来ビジョンを考える上で非常に価値の高い有意義な機会になったと思います.来年度も,できれば同様の幹事会を年度末あたりに開催して,研究部会への昇格について多くのメンバーの方々とともに議論を深めたいと考えております.

プログラム(開催案内はこちら

3月1日(月)
13:00〜13:30 工場見学
         畠山酒造 蔵元見学会(福井県今庄)
         http://www.yukikirara.co.jp/

13:30〜14:30 会場移動

15:00〜15:10 開会のあいさつ
         人間共生システム研究会 代表幹事 前田陽一郎(福井大学)

15:10〜17:40 研究会幹事による研究討論会

 第1セッション   司会:片上大輔(東京工業大学)
 15:10〜15:30 HSS-8-1 講演1:前田陽一郎(福井大学)
 15:30〜15:50 HSS-8-2 講演2:久保田直行(首都大学)
 15:50〜16:10 HSS-8-3 講演3:井上博行(福井大学)
 16:10〜16:30 HSS-8-4 講演4:中村剛士(名古屋工業大学)

 16:30〜16:40 休憩

 第2セッション   司会:井上博行(福井大)
 16:40〜17:00 HSS-8-5 講演5:片上大輔(東京工業大学)
 17:00〜17:20 HSS-8-6 講演6:星野孝総(高知工科大学)
 17:20〜17:40 HSS-8-7 講演7:高橋泰岳(福井大学)

17:40〜18:00 まとめと諸連絡
19:00〜20:00 夕食
21:00〜23:00 ナイトセッション   司会:前田陽一郎(福井大)


3月2日(火)
10:00〜10:10 あいさつ
         コーディネータ 大賀暁氏(NEC C&Cイノベーション研)

10:10〜12:00 人間共生に関するプレワークショップ

 10:10〜10:30 HSS-8-8
   「C&Cイノベーション研究所におけるワークショップ活動の紹介」 大賀暁(NEC C&Cイノベーション研)

 10:30〜12:00 HSS-8-9
   「ミニWS」 大賀暁(NEC C&Cイノベーション研)

12:00〜12:30 閉会のあいさつ&諸連絡